CASE STUDY 02

心の映画 logo 心の映画

視覚障害者が、
一人で映画を観る自由。

映画館は誰のためにあるのか。
88.89%の視覚障害者は映画館にほとんど行かない。
「心の映画」は、その壁を壊すために設計した。

ROLE — Service Designer / Researcher YEAR — 2024–2025 TYPE — 修士研究
心の映画 App Mockup

INTERACTION DEMO

音声とジェスチャーだけで、
チケット購入を完結する。

01 — 課題の発見

映画を「観る自由」は、
まだ全員のものではなかった。

中国のSNS上で視覚障害者コミュニティに対し42名のアンケート調査を実施。映画館の利用頻度、単独来場の可否、映像理解度、バリアフリーへの意識を調べた。

結果は予想を超えていた。「映画を見る」以前に、「映画館に行く」こと自体が大きな挑戦だった。

Survey Data

88.89%

映画館にほとんど行かない

13.89%

一人で来場できる

48.57%

映像内容を理解できない

69.44%

バリアフリー化を望む

02 — ユーザーの声

「行きたいけど、行けない」
その理由を、本人たちに聞いた。

回答者 A — 全盲

「座席を探すのが怖い。暗い中で一人で動くのは本当に不安です。」

回答者 B — 弱視

「スタッフに頼みづらい。迷惑をかけているのではないかと感じてしまう。」

回答者 C — 全盲

「アプリの操作が複雑すぎる。ファイルサイズも大きくて、使い続けるのが難しい。」

回答者 D — 弱視

「独立して全部を完結できる仕組みがほしい。誰かに頼らなくていいように。」

03 — 既存技術の限界

HELLO MOVIEは
「上映中」しか助けてくれない。

日本の既存サービスHELLO MOVIEは、音響通信技術で副音声を同期する。しかし対象は上映中のみ。チケット購入、入場、座席確認——映画館体験の大半は支援の範囲外だった。

さらに、マイク故障やスマホのロックで同期が途切れるリスクがあった。「心の映画」はNFCベースの同期で、これらの技術的制約を根本から解消した。

HELLO MOVIE vs 心の映画

04 — 設計の意思決定

なぜそう設計したか。

DECISION 01 — インターフェース

ボタンなし。画像なし。線形プロセス。

視覚障害者にとって、ボタンの位置を探すこと自体が障壁になる。すべての操作を音声入力とジェスチャーに統一し、画面を見なくても完結できる線形フローを設計した。

→ 操作の複雑さを排除し、聴覚だけで完結する体験を実現。

New interaction method

DECISION 02 — 同期方式

音響通信ではなく、NFC。

HELLO MOVIEの音響同期はマイク依存で不安定だった。座席の扶手にNFCタグを設置し、スマホをかざすだけで来場確認と副音声の自動再生を実現。通信環境に左右されない。

加えて、映画館の物理的環境も最小限の改修で整備する。入口から上映室までの主要導線に点字ブロックと触知サインを設置し、上映室入口には部屋番号を読み上げる音声案内装置を導入する。デジタル支援と物理的改修の両輪で、視覚障害者が「映画館に辿り着く」までのプロセスを支える。

→ 最小コストで最大の安定性。NFCタグ1枚20〜100円。

Cinema barrier-free design

DECISION 03 — ジェスチャー設計

暗闇でも迷わない操作体系。

上映室に入ると音声入力は使えない。ダブルタップで確認、上下スワイプで選択、右スワイプで戻る——画面を見ずに、3種類のジェスチャーだけで全操作を完結できる。

→ 暗闇の中でも、両手を解放したまま操作できる。

Gesture interaction

DECISION 04 — 手荷物問題

飲食物は、座席まで届ける。

視覚障害者は白杖やカバンを持ちながら、さらに飲食物を運ぶことが難しい。アプリ内でモバイルオーダーを完結し、上映前に指定座席へ配達する仕組みを設計した。手荷物の負担をゼロにする。

→ 「持てない」を「届く」に変える。売店収益の向上にも直結。

05 — サービスプロセス

来場前から退場後まで、
すべてをアプリで完結する。

Service process flow App screens overview

06 — 成果

RESULT

NFCをかざす。待つ。
副音声が自動で始まる。

それだけでいい。

07 — 振り返りと限界

まだ解決できていないこと。

01

上映時間が遅延した場合、副音声の再生タイミングがずれる問題が残る。

対策として、映画館側が変更後の上映時間をリアルタイムで更新し、ユーザー端末と確実に同期させる仕組みが必要である。さらに、ユーザーに状況を明確に伝え、冷静に待てるよう案内する設計を行う。可能であれば、補償として映画チケットの割引券を提供することが望ましい。

02

本提案はコンセプト段階であり、実装には至っていない。

理論上の実現性は検証したが、実際のアプリ開発・映画館での導入テストは未実施である。サービス全体の体験品質やユーザーの実際の反応は、小規模な実証実験を通じて検証する必要がある。これが次のステップである。

03

日本の文脈における可能性と、共通する課題。

日本は中国と比較して、点字ブロックの普及率やバリアフリーへの社会的意識において先進的な環境にある。しかし「視覚障害者が映画館に安心して足を踏み出せるか」という問いに対しては、日本もまだ十分な答えを持っていない。

現在日本で提供されている音声ガイド付き上映サービスは、「鑑賞中の補助」に特化している。しかしユーザーリサーチが示したのは、障壁は上映中ではなく——チケット購入、移動、入場、座席確認——という「映画館に辿り着くまで」のプロセスに集中しているという事実だ。

この課題は、中国と日本が共に直面している未解決の問いである。「心の映画」が設計したサービス全体のチェーンは、日本の文脈においても有効な問題提起になると考えている。

08 — 事業性分析

デザインだけでなく、
持続可能なビジネスモデルも設計した。

初期投資

400〜650万円

NFCタグ設置、点字ブロック、音声案内装置、アプリ開発を含む。既存設備への大規模改修は不要。

投資回収

約1〜1.5年

固定ユーザー200名で年間720万円の収入。年間純利益380〜550万円を見込む。

ステークホルダー構造

Stakeholder map

09 — プロジェクト詳細

FEATURES

∙ 音声+ジェスチャー操作UI

∙ NFC自動チェックイン&副音声再生

∙ オンラインチケット購入

∙ 飲食物モバイルオーダー+座席配達

∙ ナビゲーション案内

∙ 全盲/弱視パーソナライズUI

∙ レビュー・評価投稿

∙ 副音声オフライン再生

RESEARCH

∙ アンケート調査(42名)

∙ 視覚障害者インタビュー

∙ HELLO MOVIE技術分析

∙ 利益関係者マッピング

∙ コスト・収益モデル構築

∙ Figma(UI設計)

∙ 修士論文(15,000字)

TIMELINE

2024.08

アンケート調査設計・実施。42名の視覚障害者から回答取得。

2024.09–12

課題分析、既存技術調査、システム設計、サービスプロセス設計。

2025.01–06

UIプロトタイプ制作、ジェスチャー操作設計、事業モデル構築。

2025.07–11

論文執筆、成果物制作、最終発表。

NEXT STEP

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